長久手市郷土史研究会

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長久手市の歴史小話16

今も長久手に残る馬頭観音

1 馬頭観音

 観音は、悟りの境地を求める修行者として、一般に温顔である。そのため、「観音様」と「様」を付けて尊ばれ、皆からも親しまれている。一方、馬頭観音は、頂上に馬頭をいただき忿怒(ふんぬ)面を持つ例外的な観音で、馬頭明王とも呼ばれる。そのた
め造像に際しても異造が不定であるが、三面二臂(さんめんにひ)が多い。日本では山地の路傍や街道筋によく見られる。馬背による交通との関係である。そのため、一見「怒った顔をしている」と言われながらも、尊ばれ、大切にされている。

 とりわけ、市内では、近世の馬背による交通や、近代の馬背による亜炭運搬など更に馬に頼ることが多かったため、道筋や分岐点に馬頭観音像が多く置かれ、未だに水や花が手向けられる。この像への人々の祈りが今も踏襲されている。

昭和50 年頃の下山の馬頭観音

2 市内に残っている馬頭観音

(1) 下山(旧、長湫字下山)

現在の下山の馬頭観音

 長湫から清水屋方面に通っている旧道沿い、Nバス停「下山」近くにある。文久四年(1864)、馬方をしていた寺島徳三郎が祭ったと伝わる。花崗岩・舟形浮彫りの舟形高60 ㎝のものである。上の写真は昭和50 年頃のもので、旧道沿いに建っていたが、旧道の南側には一面の田畑が広がっていた。現在は田畑が消え住宅が並んで様相は一変したが、観音を祀るお堂は時折り改築されるなど、昔と変わらず地域の人々に大切にされている。

(2) 桜作・常照寺山門前

 大正13 年2 月、当時亜炭を運搬していた馬車連中の有志が、運搬の安全と馬の健康等を祈願して、現在の現在の長久手郵便局の南側・県道沿いに建立したものである。花崗・舟形浮彫りの舟形高66.5 ㎝。しかし、時代の流れと共に長湫中部区画整理事業により現在地・常照寺山門前に昭和62 年12 月10日に移転され、12 月30 日に御遷座の精入れ式が奉賛会、整理組合の方々の参列のもと、常照寺住職の読経により執り行われた。

 その後は、奉賛会の方々が交代で取り持ち毎年1 月18 日30 名程の参拝者で「初観音」を行っている。

桜作・常照寺山門前の馬頭観音

(3) 宮脇・景行天皇社東

 県道名古屋長久手線、東長久手バス停東のハートフルハウスの門内の左手にある馬頭観音は、花崗岩・舟形浮彫りの舟形高62 ㎝のものであるが、建立時期は不明である。明治・大正期は長湫地区の幹線道路として牛馬が行き交っていたであろうし、お富士の切通しももっと高い所にあって、坂道の安全祈願のために設置されたものと思われる。

 またこの附近から東浦、城屋敷方面と宮脇の別れ道ともなっていたので、その交差点の一角に置かれたものと思われる。

宮脇・景行天皇社東の馬頭観音

(4) 岩作棒振、福岡宣宏氏宅門前

 花崗岩・舟形浮彫りの舟形高43 ㎝、建立時期不明の馬頭観音。戦前、覚王山・日泰寺南にあったが、戦時中、岩作中権代に移動し、その後、新設・長久手給食センターの敷地の一部となったのに伴い、平成23 年頃、現在地に移転された。

岩作棒振の馬頭観音

(5) 岩作・教圓寺には二躯保存

一躯は緑泥石岩、舟形浮彫りの舟形高57 ㎝、明治時代作。
刻銘(光背面陰刻)「日露金才 戦馬駒忠」
もう一躯は花崗岩、舟形浮彫りの舟形高29 ㎝、江戸時代作。

(6) 岩作・御嶽本教長久手分祠殿
花崗岩、舟形浮彫りの舟形高48 ㎝。

街道沿いではないが、浅井先達の話では「教本には馬頭観音も載っている。岩作御嶽山を開いた折りに祀られたのか、昭和50 年代の土地改良の折りに持ってこられたかは不明」とのこと。

教圓寺・緑泥石岩                 教圓寺・花崗岩 

(7) 岩作色金・猪ノ鼻の堰の畔(ほとり)

花崗岩、舟形浮彫りの全高89 ㎝余。

県道名古屋・田籾線の道路北側にある。

 井の鼻は色金山と高根山丘陵の狭い谷間にあり、古来瀬戸・名古屋へ通り抜ける所で、ここで香流川の水を人や馬が飲んで休んだといわれる。明治中期から昭和にかけては長久手特産の亜炭や珪砂を馬車に積んで瀬戸・名古屋方面に運搬し、その馬車引きの人たちが建立した。

 当初、旧道と新道が交差した元門の角にあったが、名古屋・田籾線が県道に昇格し、道路が拡幅された折り、現在地に移設された。その後、永年で朽ち破損した堂宇を松原力男氏が再建、平成17 年12 月8 日に堂宇新築・遷座式と併せ「井のはな里謡碑」再建祈願が挙行され、式典には郷土史研究会からも福岡、浅井、石崎の3顧問が列席した。尚、「井のはな里謡碑」は昭和36 年に長久手郷土史研究会が建立したもの。

(8) 岩作欠花、今井五雄氏宅南西角

砂岩、舟形浮彫り、基壇は花崗岩の全高73 ㎝。

旧街道とはいえ、大八車の通る程度の狭い道で、岩作落合から下島への街道沿いに置かれた馬頭観音。

岩作・御嶽山分祠殿の馬頭観音       岩作色金の馬頭観音        岩作欠花の馬頭観音